社会支援部 会長挨拶

「社会支援部の設立にあたって」

宇都宮市医師会長 片 山 辰 郎

「社会支援部の設立にあたって

 宇都宮市医師会長 片山辰郎

 私は、2019年6月に3期目の会長職を拝命したのを機に、「世間が我々のために何をしてくれるかではなく、我々が世間のために更に何が出来るのか」という観点に立ち、「社会支援部」を立ち上げました。
 その始まりは、国が進める性急かつ強引な医療費抑制を目指す医療改革に疑問を持ったことです。ご存知のように、小泉政権時にニューエコノミーと呼ばれる経済システムが導入され、かつて1億総中流社会と呼ばれた日本の経済状況は、まるで個人勘定の様相となって経済格差が拡がりました。この時設立された経済財政諮問会議は、公職のメンバーに企業の役員が加わり、事実上の政策決定会議に位置づけられました。ここでは、現場には足を運ばずに資料を眺めながらシーリングを設け、大企業の法人税は下がって内部留保が大きく膨らんでいる状況には言及しない一方で、社会保障費も単なる数字合わせで医療費抑制策を図っています。
 しかしながら、私は医療費が下がることは最終的には良い事と思っています。医師は、病気という不幸に嫌というほど接している立場上、心情的にも病気の人が減り、その結果、医療費が抑えられることは、国とも共通の考えであります。
 病気を川の流れに例えると、現在は多くの医師が下流で病気の人を救っている状況です。また、予防医学で中流にある肥満や喫煙、多量飲酒、運動不足、ストレス等に手を差し伸べ、病気にならぬよう頑張っている先生もいます。しかし、この中流にある因子を作り出している上流があります。この上流で、川に人々を落としている不幸の源は「社会の状況」であり、個人の資質のみに原因を帰することは誤りです。具体的には、経済的格差、教育不足、社会での孤立等であり、これが様々な病気の危険因子を生み出す元となっています。こうした分野は、予防医学というよりも公衆衛生学に属するのかもしれません。例えば、経済的格差は母子家庭に多く、子供たちが孤食できちんと3食を摂れずに割高である野菜や魚、肉が不足し、逆に炭水化物を多く摂ることで栄養バランスの乱れが生じてしまいます。また、健康教育を受けていなければタバコやドラッグに手を出してしまい、消化器や性感染症の発症を抑える知識を得ることも出来ませんし、運動をしなければ肥満や筋力低下となり、動脈硬化や心肺機能の低下を来します。更に、社会との関わりが無くなれば孤独で喫煙や多量飲酒に結びついたり、食事の偏りが生じたり、精神的ストレスの為免疫が低下し、感染症や癌の罹患率が高まる等、社会的要因が病気の危険因子を惹起することが容易に想像されます。
 2019年、WHOの関連機関が幸福度ランキング2019を発表しましたが、日本は156か国中58位で、年々ランクを下げている状況です。この決定要素として、日本の健康寿命は世界2位にも拘らず、社会的支援や他者に対する寛容さが低いために大きく順位を下げているとのことです。正に、我々が今後目指す市民のための社会支援は、幸福度を上げることにもリンクします。
 長野県においては、若月俊一先生が中心となり、佐久地域から保健師による減塩や運動の促進、社会との繋がりを持つ指導が行われ、これを広めたところ50年という年月はかかりましたが、最も長寿の県となり、高齢者の医療費が日本一抑えられるという、誰もが認める健康県となりました。
 私はこの取組よりさらに高みを目指す、全世代に対する対策を望んでいます。特に、子供たちという多くが未病の世代から減塩やバランスの良い食事、腹八分目、危険な嗜好品を避ける、運動すること等を指導し、いじめ等の心の問題の解消を図りたいと思います。既に私がこの世に存在しない未来になると思いますが、『健康都市宇都宮』の確固たる地位を築くという夢を描いています。
 そして、この考えを後押ししてくれたのが、村井邦彦理事や関口真紀先生を中心とした若手医師と多職種とで構成された「SDH(健康の社会的決定要因)検討会」です。ここでの患者と地域をつなぐための「社会的処方」の考えが自分の構想と結びつき、これは医師会の中での一つの仕事として行っていくべきと考えました。
 これらは、性急で痛みを伴う医療改革ではなく、副作用の少ない医療費抑制政策に繋がると確信しております。ここまで話してきたことは、より良く生きるために考えていることですが、もう一方で逆のベクトルである、より良い死を迎えるにあたってはどうしたら良いのかという課題も、ACPの普及を含めて考えていきたいと思っております。
 私は、医師会の仕事をして15年目となります。宇都宮市医師会は、多くの先生方が人々を幸せにすること、そのためには自分たちが関与する病気を減らしていきたい、という正に衣食足りて礼節を知るという真摯な心を持つ集団であると感じております。私が進めていることは、利潤追求を第一とする団体ではお叱りを受ける行為でありますが、今後もこうした会員の先生方と共に、より良い未来になるように宇都宮市医師会が力を発揮できますよう、これからもご支援、ご協力を宜しくお願い致します。

(宇医会報-2019年8月号-より)